
不意に口が滑った。
「本当は松山市の人でしょう?」
電話の向こうの彼女は何も答えず、こちらの意図をじっと伺うような鼻息だけが聞こえてくる。
彼女は出会い系で知り合ったメル友。写真を何回か交換した。彼女は自分の顔写真だけじゃなく趣味で撮った花の写真をたくさん送ってきた。花びらの接写がなかなか上手で、気に入った写真はスマホの壁紙にしたりした。同年齢で相性もよさそうで、いつか会いたいと思う。
名前はわかったが、住所は曖昧なままだった。
「神奈川のほう」
くらいしか教えてくれない。
俺は名前からFacebookを特定した。花の写真がたくさん載っていたのでたぶん彼女だ。それによるとたしかに神奈川県横浜市の人らしい。横浜だと簡単に会える距離ではない。俺は四国の松山市。
「四国に来てください。四国にも素敵な花が咲いていますよ」
そんな文章を匿名で投稿した。
しかしある日、ひまつぶしで彼女から送られてきた写真を解析したら、俺と同じ松山市だったのだ。もらった写真すべて同じだったから横浜はたぶん嘘だろう。Facebookの写真は位置情報を消していたが、消していなかったらきっと松山市を特定できたに違いない。俺はぞくぞくと体が震えるのを感じた。
最近のスマホ技術では、ジオタグつき写真であれば地図アプリと写真閲覧アプリを駆使して、その写真がどこで撮られたか解析できる。SNSに写真を載せる場合、位置情報を取られないように気をつけるのが一般的だが、たまに彼女のように油断する人もいる。実は俺も彼女に送った写真は位置情報をつけたままだった。出会い系で知り合った女性とは会うことが前提なので、面倒だからそのまま送るようにしている。
「あなたはどこの人?」
沈黙のあと、彼女がそう口を開く。
「松山」
「だったら今度会いましょう。すぐ近くだしね」
意外な展開だった。住所がばれて開き直ったのだろうか、彼女は積極的だった。俺が至近距離に住んでいるということを知っても、さして驚いた様子ではない。
「うっかりだったわ・・・位置情報つけたままだった」
「俺もつけたままだったと思う」
「そうだったの? 知らなかった」
彼女は可愛らしい。花を愛でる女性は花のようになるのだろうか。地元四国に咲く素敵な花を俺はゲットした。
今から思うに、実は彼女も俺の写真から松山の住民であることを割り出していたんじゃないだろうか。
そんな気がして仕方ない。